通常実務の取り扱いは、婚姻費用分担申立調停提起月からとされています。
本来、婚姻費用分担の法的根拠は、民法752条の夫婦扶助義務に基づくものであるから、婚姻費用が支払われなくなった時(多くは別居時)から発生するというのが理屈です。しかし、別居後相当期間を経て請求が為された場合、これを別居時に遡って払えというのは義務者に酷になる等の理由で、実務では、衡平(信義則)の観点から、調停申立時とされています。
また、婚姻費用分担義務は、同居等の事実上の関係から生じるものではなく、婚姻と言う法律関係から生じるものであるから、婚姻後同居や協力関係等の事実が全くなくとも、調停申立時から義務が発生するとされています(東京高等裁判所令和4年(ラ)第1604号婚姻費用申立却下審判に対する抗告事件令和4年10月13日決定)。
しかし、その支払い開始時期の定めは、信義則に基づく制限ですから、事案の内容によっては、内容証明郵便で請求した時(東京家庭裁判所平成27年(家)第2612号婚姻費用分担申立事件平成27年8月13日審判)とされたり、代理人弁護士が通知を出した事実が認められたりした時から発生するとされる実務が増えています(通知のやりとりに争いが無い場合やFAX履歴が残されている場合等)。
また、原則に戻って、信義則の適用により(別居の原因が主に義務者にあり、権利者が子の医学部進学の費用や生活費に困窮していた事情を、権利者が十分に認識し得た事情の存在等を認定して、別居時に遡って支払い義務が発生するとされた事例(広島高等裁判所平成49年(ラ)第5号婚姻費用分担の審判に対する即時抗告事件昭和50年7月17日決定)があり、最近では、義務者は権利者が要扶養状態にあったことを当然に認識すべきであったことや別居から調停申し立てまでの期間が短い(一月)ことを理由に、別居時に遡って支払い義務が発生するとされた事例が存在します(最高裁判所第2小法廷平成24年12月5日決定=仙台の定禅寺通り法律事務所に依るネット情報により事件番号未確認)。