親権や監護権に基づく子の引渡しを実効するための強制執行について、かっては、手続法が存在しないとか性質上なじまないとかの理由で、間接強制のみが認められ、直接強制は認めない傾向にありました。
近年は、民事執行法169条(動産執行)の類推適用により、直接執行を認める傾向に変わり、さらに国会において法律制定が検討されています。
そうした流れの中で、最高裁判所第3小法廷は、平成30年(許)第13号間接強制に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件同31年4月26日決定において、子が激しく抵抗して執行を妨げた事案で、直接強制のみならず間接強制も、権利濫用として認めないという決定を出しました。法律専門家によっては、例外的判決(決定)であると評するものもあります。子供の年齢が9歳であるのも、従来の基準(12歳くらい=中学生年齢)に比べ年少化したと評するものもあります。
しかし、最近の子供は、小学校高学年においては、既にしっかりとした考えや判断力を有しており、子供であると侮ることは正しくないと思います。従って、最近の先例は10歳という基準を用いるケースも増えていました。しかし、小学校低学年においても、子供によってはしっかりとした判断力を有している子もいます。また、合理的判断によるものではなくても、親密な親子の絆に基づく心情をも含めて、当職は、子供の意思を尊重すべきであると考えています。
この考え方を前提とすると、子の引渡は、親同士の関係ではなく、親と子の関係であると見るのが、本質的であるとの考えに至ります。従って、子が嫌がっているのに、親に対して強制執行をすることは、何の効果もないばかりか、子が執行を受ける親に気配りを強制されることになるので、まったく子の福祉に反する強制行動であるというべきことになります。言葉を変えると、監護親の義務は、相手の親に引き渡す義務ではなくて、引き渡しを妨げない義務に止まり、強制執行になじまないものというべきです。
従って、当職は、掲示の最高裁判所決定は、例外的な判決ではなく、本来あるべき、原則的な価値観を表したものと、理解しています。